光が映し出した彼の表情に、もう憂いなどなかった。
月に投影している人物の姿を思い浮かべ、心底幸せそうなその笑顔。
萬天はまるで、恋しているようだった。
【…………。】
林火にとって、萬天のそんな顔を見るのは長いこと生きてきた中で初めてのことだった。
これまで、一族を抜けて放浪していた萬天に何度も接触したことはあった。
いつも、労わりの言葉をかけても、萬天は自分を遠ざけるだけ。
笑顔を見せるなど、以ての外。
【……そのお方は、何と仰るので?】
だから、無性にその人間のことが知りたくなった。
無自覚とは言え、萬天にこれほど思慕させるなんて、一体どんな女なのか。