その時だった。
ばさっ、という風を巻き起こす大きな音がした。
“それ”は一瞬だが林火を掻き消しそうになり、次には“萬天の背に広がる二枚の黒い翼”として形を留めた。
人間から翼が生えるなど有り得ない。
それも、こんなカラスのような翼が。
が、林火は驚きはしなかった。
萬天もまた同じ。
何故なら双方、萬天が生まれた頃より、この事実を知っていたのだから。
その姿はまさに、天狗。
体を“同種の爪”で切り裂かれた、一人の哀れな天狗が、そこにいた。
メニュー
メニュー
この作品の感想を3つまで選択できます。
読み込み中…