ふと、萬天が何かに反応した。
微かに目を見開くと、振り返ることをせず、“後ろにいる者”に言う。
「……もう拙に、姿を見せるなと言った筈だぞ…林火(りんか)…。」
その声は低く、ひどく威圧的。
普通の者なら、異質なその声に竦み上がってしまうだろう。
実際言われたほうはしばし黙り、
その後すぐに、答えを寄越した。
【……申し上げた筈で御座います……。
やつがれ(一人称)が生涯お仕えするは…萬天様ただ御一人…。
例え貴方様が“一族をお棄てになった”としても…、やつがれだけは、萬天様をどこまでも御助け申し上げる所存……。】
声は、初老の男のものだった。
ただ、法螺貝の中に声を溜めたような不思議な響き。
とても、人間の声とは思えない。