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その日の夜、萬天は一人、竹藪の中で降り注ぐ雨をただ見上げていた。

以前、宿屋の前で、傘も差さずそうしていたように。


表情は物憂げ。
不安は消えず、困惑の表情は今朝と同じまま。


ただひとつ、今朝と違うのは…、


萬天が赤い羽織り以外、何一つ身に纏っていないことだった。


素肌には真新しい傷がいくつもあり、肩からするりと落ちた羽織りが隠していたのは、

背中についた、大きな刀傷のような痕。


これも新しいものらしく、血が雨に溶けて脚へ脚へと流れている。

…が、萬天自身は、さほど痛みを感じていないようだ。


深く、肉が裂かれているというのに。