後ろ髪が少し跳ねている黒髪。
その前髪の隙間にある男の目は遠く、雨を愛しんでいるというより、その向こうにある何かを見ているようだった。


梳菜の姿に、気付いてはいないらしい。



「……あ…。」


ふいに、梳菜は思った。

あのまま傘もささずに雨に打たれていたら風邪をひいてしまう、と。


だから初対面にも関わらず、彼女は勇気を持って…



「…あの、もし…。」


男に声をかけたのだった。