「………そうか…。」
萬天には、これ以上踏み込むことが出来なかった。
ほとんど見ず知らずの自分が、訊いたところで一体彼女に何が出来るだろうか。
彼女自身言えないことならば、無理に聞き出すのは良いことと言えるのだろうか。
…そして、先ほどから胸に感じる、熱いような苦しさは何なのだろうか。
分からないまま、萬天は無造作に、懐に手を入れた。
「…………ん。」
入れた瞬間、指先に触れた柔らかい感触。
ああそうだ、と思い出したように、萬天はそれを懐から取り出し、
梳菜の目に映した。
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