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それから数日が経った。

相変わらず、梳菜の働く宿屋に客足は絶えず、接客を任されている彼女は文句ひとつ言わず、きちんと働き続けていた。


…が、あれから一向に、


赤い羽織の男は現れない。



所詮、初対面同士の口約束だったから仕方がないと梳菜は半ば諦め、新しくやって来た二人組の客を部屋へ案内した。


随分と身なりの良い、年老いた夫婦だ。


「…こちらが、春霞の間でありんす。

お食事は、後ほどお持ちいたしますんで…。」


至極丁寧に頭を下げ、梳菜はそのまま戸を開き、部屋を去ろうとした。

…が、老夫婦が思い出したように声をかける。



「おい、お前。
何故客の前で頭巾なんぞを被っておるか?
きちんと顔を見せい。」


「………え……。」