「冥土の土産に、名だけでも教えてやろう。
おれは小窪兵五郎(おくぼひょうごろう)。

これから、貴様を殺す男だ。」


小窪、と名乗った役人は刀を引き抜くと、その切っ先を真っ直ぐ梳菜の首元に添えた。


普通斬首刑というのは、専門の首切り役人に任されるらしいが、この小窪という男はどうしても自分の手で梳菜を処刑したいようだ。


初めて触れる刀の感触に恐怖を増し、梳菜はついに下を向いてしまった。

それを見て、小窪は更に声を高くする。


「皆の衆!見たか!?
あの黒潮(くろしお)と恐れられた殺し屋の娘は、とんだ臆病者よ!!

見ておれよ!
今このおれが、娘の首を撥ねてやるわ!!」


途端に、観衆は大歓声を上げた。