無意識に身を引いた萬天。
そして、入れ替わりにその場所に降り立ったのは、
不気味なカラスの顔をした、別の天狗だった。
萬天とは同胞でありながら、その立ち振る舞いに友好的な態度は見られない。
むしろ、萬天に襲いかかる時を、今か今かと待ち望んでいるよう。
山伏の格好をしたその烏天狗は、嘲笑うかのように目を細めた。
【はて、訊くが……、裏切り者がこのような場所で、何を安穏と過ごしておられる…?
仮にも我ら紅蓮山天狗一族の長“だった”者が……。】
その挑発的な態度は、とても自分の主君だった者に対するものではなかった。
萬天は憤りを隠さず、慇懃無礼な目の前の天狗を強く睥睨した。