これまで見せたことがないほど、怒りに満ちた形相で、萬天は振り返った。

背後……正確には、やや上から降ってきた声に向かって吠えたのだ。


すると、声の主は怖気づく様子もなく、


【勇ましいことよ……。
仲間を棄てた身でありながら、まだ己が大将と思うている顔だ……。】


立っていた木の上から、ゆっくりと舞い降りてきた。


「……大将も糞もあるものか!
お主達は頭がいかれている……っ。
天狗として……紅蓮山に棲む妖怪として、恥ずべき行いをしようとした!!」

【貴様が最も乗り気に見えたがのぉ……。
亡くなられた長が、生前企てておいでになったあの行いを…。

だがその“力”を恐れるあまり、貴様は尾を巻いて逃げだした…。】