「おはよ」
「あ、侑月おはよ~‥。どうしたの??侑月、顔真っ赤だよ?」
「走って来たから」
「そうなの?」

睦月が心配そうな顔をしている。
大丈夫とだけいいながら俺はスクバを降ろした。

「ぷっ‥」
「なんだよ」

睦月が声を抑えながら笑っている。
つられて一緒にいた木之本 恋空(きのもと れんら)も笑っている。

「ゆづちゃん、走りすぎてスカートぐっちゃぐちゃだよ~」

俺はとっさにスカートを直した。
恋空が笑うと恋空の髪の毛が揺れて、甘ーい柑橘系のいい匂いがする。
学校ではいつもこの3人でいる。

「ゆづちゃん‥何かあった?」

恋空は笑うのを辞めて、俺に気を使った。
人の不安に人一倍敏感な彼女は何かあると一番に心配してくれる。

「大丈夫だよ。恋空は心配すんな」
「そう??何かあったら言ってね」
「侑月!私達に隠し事はなしだよ!」

俺は二人に小さく頷いた。
しかし、この安心しきった空気は一瞬で冷たい空気にかき消された。
誰かの強い視線を感じる。
俺は後ろを振り返った。

‥大町 奏人

ネクタイに指をかけながら俺を笑顔でみている。
その整った顔立ちの笑顔は周りから見たら天使だが、俺には悪魔にしか見えなか
った。

「侑月。来て??」

俺は体が動かなかった。
俺を呼ぶ瞬間、大町はネクタイを下げたんだ。
スゴく嫌な予感がする。