「…だからさっき人違いだって…?」

「ん…。俺はちゃんと写真と向き合いたいんだ。だから全てを捨てて、平井さんの所に戻った…。」


彼の顔は、どこか悔しさがあった。健吾の手が軽く拳を作ってた。


「私…、前に進みたくて今回のモデルを引き受けたんです…。」

魔法をかけられたように、口から言葉が出てくる。

今は健吾に聞いてほしい…それだけだった。

「………?」

健吾は黙って私の方を見てる。

「私の好きな人、学校の先生なんです。もちろん片思いで、卒業したら告白しようと決めてました。でも、先生は結婚するみたいで…。先生から逃げるようにあの日、桜の木の下にいたんです。」


「………」

時計の秒針の音だけが静かに聞こえてる…。


「一度先生に告白してスッキリしました。返事は聞いてないけど、この恋に区切りつく事もできた…。」

「何か変わるきっかけがほしかった…。そんな時に山川さんと出会ったんです。これじゃ山川さんの期待に応える写真なんて無理ですよね…。」