「さっき…」

「ん…、何…?」

思い切って私から声をかけた。

「さっきの店で、人違いって言ったのはどうして?」

健吾は答えなかった。

しばらく沈黙が続いて、静かにリビングへ戻り、白いソファーに深く座った。

私はその光景を黙って見るだけだった。


「ミキ…」

健吾がやっと口を開いた。

「タバコ吸ってもいいかな…?」

「いいですよ…」

“ありがとう”と一言言い、タバコに火をつける。

“ふぅーーっ”と煙を吐き出す その姿が、彼を大人の男性に見えた 初めての瞬間だったと思う。


彼の横顔…、

柔らかそうな髪…、

ジッポーをいじる綺麗な指…、

タバコをくわえる口元…


健吾ばかりを見てるうちに 彼が本当にイケメンだってことに今頃気付いた。

「…さっきから黙ってるけど、足まだ痛む?」

再びバルコニーに来た健吾が心配そうに 私の顔を覗き込んでくる。

優しく私の手を取り、ソファーへと連れてってくれた。