逃げ帰ったのは、
唯ママのとこ。

涙でぐしゃぐしゃになったあたしを見て、
唯ママ、
何も言わずに抱きしめてくれた。

あたし、
ずっと泣いてた。

その間中、
唯ママはあたしを抱いて、
ただ抱いて、
頭を撫でてくれた。

ひとしきり泣いて、
なんか、
すっきりして、
顔を上げたら、
唯ママが優しく笑ってた。

「サキ?」

「あたし、カズに振られちゃった…」

「まさか?」

「ほんと。カズ、あたしのこと愛してないんだ」

「カズくんがそう言ったの?」

「カズ、わかんないんだってさぁ」

「ふぅ~ん」

何で?

何で、唯ママ、笑ってるの?

「カズくん、きっと、『愛』って言葉の意味を真剣に考えてるんだよ」

「えっ、どういうこと?あたし、カズのこと愛してるよ。好きよりもっと、大好きなんだよ!それが愛してるってことじゃないの?」

「あたしは、ちょっと違うと思うよ」

「『愛』って、『好き』の延長線上にあるものじゃない。相手を大切に思う気持ちとか、責任とか、そういうつまらなくて苦しいもの。相手を自分の物にしたいとか、自分を相手に受け入れてもらいたいとか、そういう欲望の対極にあるもの」

「…」

「カズくんは、真剣に考えてるんだよ」