今日から少しづつ薬を飲みながら、お父さんは様子を見ることになった。でも、この薬は癌を治す薬じゃない。癌の進行を遅らせる薬だ。何で…何でもっと1年や2年前に戻って来られなかったの?そうしたらお父さんはきっと助かったのに…小さな未来は変えられても、大きな未来は変えられないの?私はお父さんの隣を歩きながら、ただひたすら泣いていた。


「加奈子…お父さんにこの余命を知らせに来てくれたんだな。」


「………。」


「加奈子…お父さん、怒ってないよ。」


「本当はね、あと少しの時間をもっとお父さんと一緒にいたかったから来たの。皆にお父さんとの時間を大切にしてもらいたかったから。でもね、思ったより前に来たからもしかしたら早期発見で助かるかもって思ったのに、やっぱり未来は変えられなかった…。お父さんに辛い思いさせちゃった………。」


お父さんは私の肩を抱きながら、涙を堪えていた。


「お前、さっきの眼鏡猿みたいな事言うな」


「眼鏡猿?」


「病院の先生だよ。猿みたいな顔だったろ」


お父さんは大声で笑った。周りの人が振り向くくらいの大声だったけど、今度は怒らなかった。お父さんの笑い声を心のアルバムにしまうために、一生懸命お父さんを見つめた。