とてもしあわせでした
だから臆病になっていました
私がもしあなたに
たった1つ
私にできることをしていたのなら
あなたのとなりで
私は笑っていることができたのかな?
キミの笑顔は私に向けられるのかな?
「ちょっと笑、聞いてるの?」
『えっ、あぁ聞いてる。聞いてる!!』
加藤笑―カトウエミ
この春より高校生になったばかりの
高校1年生。
もう入学して2ヵ月、6月の梅雨時。
『で、なんだっけ?』
「もう、結局聞いてなかったんでしょーっ」
『ごめんっごめんっ!』
この子は中学からの親友、紺野ひかり。
ちょっと大人っぽいオーラで、
ストレートロングの髪はよく映える。
そして同じ陸上部。
「だからね、梅雨入っちゃって外じゃあんまり練習できないから今日は体育館でやるって先生が。」
『そーでした、そーでした』
陸上部…というか外部活にとっては
梅雨はかなりの強敵。
グラウンドが使えない日が続く日々。
とは言うものの入学した当初は
3年生が主であり充実した部活とは言えなかった。
『…はやくおもいっきり走りたいなぁ』
雨が伝う教室の窓ごしにびしょ濡れのグラウンドを見つめる。
3年生が引退して数日間、
結局練習はあんまりしていない。
まぁそんなに練習する気もないんだけどねっ…
『なんだか部活、待ち遠しくなってきたぁっ』
「はいはい。」
『ひかり冷たっ!!』
「はいはい」
なぜか燃え上がっているわたしに
あきれるひかり。
この頃はまだ高校生になっても
なにか大きな変化があった訳でもなく
ただ平凡に毎日が過ぎていた。
もうすぐ私は出逢う。
私が大切だと思える人に。
梅雨も明け、やっと思い切り駆け回れる7月がやってきた。
『よっしゃーっ!!晴れた、晴れた!』
「笑、女っ気ない」
『そーゆうひかりだって…』
女っ気ない。
って言おうと思ったけどひかりはかなり女らしい。
私と比べたら断然に。
スタイルもすごくよくて美人さん。
友達として自慢できる人で
ちょっと憧れてたりもする。
「なに?」
『なんでもない』
そう思うとまじまじとひかりの顔を見てしまう。
「笑はそーゆうところがいいんだけどね」
そんな私をひかりが笑いながら茶化す。
『なっ、!!?』
「照れてるっ」
なんだかんだ毎日ひかりにからかわれている。
『もーっ…。はやく部活行こうよっ』
「はいはいっ。拗ねないで」
ちなみに私は短距離専門。
ひかりはマネージャーだったりする。
私の学校では野球用グラウンドと大グラウンドがあり、
野球部はもちろん野球用グラウンドで
陸上部はサッカー部と共有で大グラウンドを使用している。
微妙に立場は狭い感じ。
『あっ!!部室にタオル忘れたっ』
ジャージに着替え、ひかりとグラウンドに行く最中、
ふと思い出す。
「どうする?私取ってこようか?」
『うーん、いいよ。すぐ戻ってくるから、先に行ってて』
結局グラウンドに入る手前で部室まで引き戻す。
もしあの時タオルを忘れなかったら…
私はキミの存在に気づくのはもっとあとで
こんな気持ちを知ることはなかったのかもしれないね
『どーしよぉ、遅刻だよーっ!!』
部室までタオルを取りに行った訳だが、
なかなか発見出来ずに時間は部活が始まる時間になっていた。
グラウンドにダッシュで向かう。
徐々にグラウンドが見え、陸上部もサッカー部も練習を始めていた。
『やっばい!』
そう言ってさっきよりスピードを上げ走り出す。
一瞬自分の前の黒い影を押さえる。
ドンッ
『うわっ!!!ごめんなさいっ』
その影に思い切りぶつかる。
「ぃ、ったぁ…。」
勢いよくぶつかってしまったことに後悔。
相手はあんまり関わりたくないサッカー部。
『本当にごめんなさい!!』
本当に今日はついてない。
「別に平気だからそんな謝らなくても…。」
一瞬睨まれたと思ったが案外優しい一言になぜか呆然。