朝早くから聞こえてきた僕の大声に吃驚したのだろう。廊下をバタバタ、と走ってくる音がしたかと思うと居間のドアが開いた。



「ちょっとどうしたの。大丈夫?」



入ってきたのは母さんで、声をあげたのももちろん母さんだ。けど、その口調は僕を心配するというよりは、呆れているような部分が大きかったと思う。



僕は立ち上がって下敷きになっていた毛布を拾って畳んだ。




「大丈夫。ソファから落ちただけだから。それより、これかけてくれたの母さん?」




母さんは僕に、毛布よこして、と目で言ってから答えた。




「そうよ、昨日テレビ見たまま寝てたでしょう?寝言も言わないでぐっすり眠ってたから起こすの可哀想だと思ったのよ。」




僕は畳んだ毛布が広がってしまわないようにそっと母さんに手渡した。毛布を受け取って居間から出て行こうとしたその後姿に、僕はそっけなく言った。




「ありがとう。」



「はいはい、風邪引くからちゃんと部屋で寝るようにね。」



「分かってる。」




ドアが閉まったあと、急に襲ってきた肌寒さに身震いして、僕はストーブの電源を入れた。



運転を開始します、という機械の声。


カーテンの向こうの光。




いつもよりもはやい朝の目覚め。

日常と変わっていたのはそれ位だった。