振り向くと…30代後半くらいの細身の女性が、優しい笑顔を向けながら扉を開けて入って来た。
『おはようございます!起きてたんですね?早く出ないと、遅刻しちゃいますよ?』
フフッ…と笑いながらカーテンを束ねた。
【蓮】と呼ばれた少年は、長身で目付きが少々悪い。
しかし、性格は至って穏和…というか冷静で…
落ち着きがある。


部屋に入って来た女性は、彼の母親(名を【亜也女】)である。


『…あいつ…。
どうにかしてくれよ…。』

蓮は、明らかに嫌そうな顔をして亜也女に訴えた。

『…“あいつ”?』

そういって階下にある
道場に目をやると…

『あぁ!
“菊音”チャンですか!!』

なぁ〜んだ!…とでもいうように、亜也女は明るく笑い返した。

『いいじゃないですか!
毎日の鍛練は大切なことですよ?蓮クンも一緒にして来たらいいじゃないですか!朝からスカッとしますよ』

亜也女は調子良く素振りの真似をしながら、蓮の方へ小手先を向けた。と…
さらりと片手で交わされてしまった。


『…俺、夜型だから。』


そういうと、さっさと部屋から出ていってしまった。
『……本当に…。そっくりですね…。』

誰もいなくなった部屋で、亜也女はひとり…嘆いた…