翌日の午後、直也から電話が入った。

「体調はもう大丈夫?」

「ありがとう、体調も気分もすっかり良くなったわ」
「良かった・・・」

ちょっとの間をおいて、愛穂が切り出した。

「ねぇ、直也。これからちょっと会えないかなぁ?早い方が良いと思う話があるんだ・・・」
「愛穂が大丈夫なら、俺の方はOKだよ」
「じゃぁ、7時ぐらいでどう?」
「うん、駅前であの店のパスタでも食べながらでどう?」
嬉しそうに少し弾んだ直也の声が返ってきた。

「はい・・・、じゃ後でね」
こういう話は電話で云うよりも、一刻も早く会って直接伝えたかった。

「それにしても、愛穂って、凄い回復力だよな!昨夜はあんなに熱っぽくって、ボーとしてたのになぁ」
プロポーズの返事と、来月直也の実家へ一緒に行くという話しのOKの答えが聞けるものだと確信している直也は、当然機嫌は絶好調だ。

「話しってね、そう、プロポーズの返事なんだけどね・・・」
愛穂は、そこまで云って目を閉じ、あの「この先、通りぬけ出来ません」と記された看板を瞼に浮かべてから、次の言葉を切り出した。

「私、直也と結婚できない。ごめんなさい・・・」

一瞬にして、表情を変えた直也が平静を装いながら食い下がった。

「えぇ?どうして?何が、何処が不服なの?」
「ごめんね、私には直也はもったいないよ。もっとあなたに似合いの人がいると思うんだ・・・」