「だってバニラエッ……」


──ぜってぇ誰にも言うな──


脳内でリプレイされた低くすごむ声。

思わず滑りそうになった口を、キュッと一文字に結んだ。


「な、なんとなく……」

「ふぅん?」


バニラエッセンスの香りがしたから、ケーキ屋さんでバイトしてんのかなって思ったけど。

タツ兄の反応からして、そうじゃないみたい。


ってか、今のは危なかった。

気をつけないと……。


「じゃ、行ってみっか?」

「……え?」


キョトンとする私の返事も聞かず、タツ兄はケータイを取り出してカチカチいじりだした。


『行ってみっか?』って……え? どゆこと?


えっと、確かさっきまで『悪魔がどうやってお金稼いでるか』って話をしてて。

口が滑りそうになって、で、ケーキ屋さんじゃなくて……うん?


タツ兄はケータイを耳に当て暫くジッとしてたけど、『よし』と言って電源ボタンを押した。


「たぶんやってんな」


ニヤリと不敵な笑みを浮かべたタツ兄は、なんだかイキイキしてる。


「おし、ひなた。行くぞ」

「えっ……え?」

「俺も言いてぇ事あるしな」

「タ、タツ兄! 行くってどこに!?」