私はまだ、この金が怪しい金だと疑ってる。


だって一万円。

いくら世話になったからってそんな大金を軽々と差し出すなんて、悪魔のその金銭感覚はただ者じゃないと思った。


タツ兄はジーンズのポケットに両手を突っ込みながら、「あー……」と言葉を濁す。

なんとなく言葉を選んでるようにも見えて、私の緊張も高まっていく。


「俺も詳しくは知んねぇけど、たぶん普通じゃね? でも、隆斗はちょっと特殊」

「特殊?」

「あいつ、小遣い貰わねぇで自分で稼いでっから」

「えぇ!?」


まさか自分で稼いでるとは思わなかった。

悪魔がバイト?
……全然想像できない。


「もしかして……ケーキ屋さん、とか?」

「はぃぃ?」


タツ兄は片眉を上げて笑みを浮かべながら、素っ頓狂な声を出した。


思うんだけど……タツ兄のこういうとこ、好きだなぁ。

私が何を口走っても反応がソフトっていうか……優しい。


悪魔だったら、絶対こんな風に笑ってくれない。


「なんでケーキ?」