「『重荷になりたくない』……って、言ってた」


それまで空虚を見つめていたタツ兄の瞳が、ゆっくりと私に向く。


霞んだオレンジ色に反射した奥二重の猫目からは、いまいち感情が読み取れない。


私は立ち尽くしたまま音を立てないように注意して生唾を飲み込んだ。

手にしっかり握ってる一万円札は、少し湿っぽい。


「ははっ」とタツ兄が笑った。

少し眉をしかめてるのに、口角を上げて無理やり笑顔にしたような。


「あいつ、変わってねぇなぁ……」


笑いながら、短めの茶髪を軽くぐしゃぐしゃにする。

やるせない気持ちを誤魔化すみたいに。


嬉しさと寂しさを混ぜたくった表情を浮かべるタツ兄からは、もう怒りは感じなかった。


「でも、いくらなんでも多すぎだよね。こんな……」

「俺に気ぃ遣ったんだろうな。ったく、かっこつけやがって。俺、そんなに貧乏じゃねぇっつの」


いつもの明るさを呼び戻すようにおどけた台詞を口にしながら、タツ兄は立ち上がり、一万円札を受け取った。


「……タツ兄」

「ん?」

「佐久間くん家って、お金持ちなの?」

「金持ち?」

「だって、一万円も持ってるし……」