「受け取れねぇ」


そう言った彼の表情は、いつになく真面目なもので。


驚いたのは拒否されたからじゃなくて、拒否する時の反応が予想してたよりもずっと軽くなかったからだ。


「返しといて」

「え……や、でも、絶対渡せ、って言われたんだよね……」


タツ兄の態度にどう接していいかわからず、私は当たり障りのない苦笑いを浮かべる。


買い物袋をぶら下げた奥様方が行き交う、タツ兄のマンションの前。

辺りの景色は錆びたオレンジ一色に染まり、生暖かい風が頬をかすめる。

電線に乗ったカラスの乾いた鳴き声が、自棄に耳の奥で響いた。


タツ兄は目を閉じて小さく溜息をつくと、すぐ傍にある腰の高い花壇に腰を下ろした。

怒っているような、哀しそうな……どちらとも取れない、だけど酷く重苦しい雰囲気がヒシヒシと伝わってくる。


「……なんか、言ってた?」

「え?」

「隆斗」

「あぁ、えっと……」


なんでタツ兄は、こんなに深刻チックなんだろう?


やっぱこの金は、ヤバイ類のブツなのだろうか……。