声の主は、クラスメートの……小林くん。


着くずした服装で髪も明るく染色してる彼は、不良の部類に入る男の子。


私は小林くんを凝視してるってくらい見てるけど、小林くんが見てるのは私じゃない。


小林くんは、机に突っ伏した……この教室の最高権力者を見下ろしていた。


「おい。佐久間」


“佐久間”

聞きなれない不自然な響き。


それもそうだ。

だって小林くんは普段、悪魔の事を“佐久間”なんて呼ばない。

“佐久間くん”って呼ぶ。


影では“佐久間”って呼ぶけど、本人の前では絶対にそう呼ばない。


だから今、彼の豹変ぶりに私はすんごい驚いてんのに。
当の本人は顔色一つ変えず、もったいつけてるかのようにゆっくりと、机から顔をあげた。


冷たく光る鋭い瞳が、背筋が凍るような威圧感を醸し出す。


悪魔と目が合った瞬間、小林くんは一瞬表情を強ばらせたものの、すぐに笑顔へと塗り替えた。

見てるだけで不快になるような、ニヤニヤした笑顔。


「先輩が体育館裏に来いってよ。お前、終わったな」

「…………」

「逃げんなよ? 逃げたらどうなるかわかって──」


ガターンッ!!


小林くんの言葉を、悪魔がなぎ倒した机の音が乱暴に掻き消した。