口を結んだまま窓の汚れた溝を見つめていると、ハァ、という溜息が胸に突き刺さった。

針でチクッと刺されたような。


刺された穴から空気が抜けてくように、自然と目線が下降してく。


「……一回しか言わねぇからな」

「……え?」

「これは──……」


俯いたまま首だけ振り返った私が状況を理解するのも待たず、悪魔はスラスラと呪文を唱え始めた。

……違う。

呪文じゃなくて、これ、問題の説明だ。


意外すぎる悪魔の言動に、私は土偶みたいに口を開けっぱなしのまま、悪魔の横顔と教科書、2つに目線を何度も往復させた。


舌打ちされて殴られる、良くて放置されるって思ってたのに……。


悪魔は左手で教科書に暗号を書き込みながら、尚も呪文を唱え続ける。

ぶっきら棒で恐いけど……いつもよりは幾分か、優しいような気がした。


それは私が殴られる事を覚悟してたからそう錯覚してんのか、実際悪魔がいつもより優しく話すよう意識してんのか、説明するときは無意識にこうなっちゃうのか、理由はわからない。


だけど、今少しだけ、苦手だった低い声を『嫌じゃない』と感じてる自分がいるのは事実で。


さっきまで心臓内で暴れまくってた怪獣が、今度はハイテンポなダンスを踊り始める。


なんとなく横顔を見つめ続けてんのが気まずくなって、目線を下ろした先には、血管の浮き出た骨っぽい左手があった。


そして──


……書かれてる文字は、やっぱり暗号だった。