「弱み……握っちゃった?」


ピチャン。

蛇口から落ちた水滴が、誰もいない薄暗いトイレ内に響く。


鏡の中の私はミラーボールみたいに目をキラキラさせてて。
背後に映った、天井の角の薄気味悪いクモの巣さえ気にならなかった。


そうじゃん。

私がビクビクする必要ないじゃん。


むしろ、ビクビクするのはあっちだ。


私に弱みを握られた、佐久間隆斗の方だ。


「ムフフ……」


花子さん級の怪しい笑みを浮かべながら、蛇口をひねる。


手を流れる冷たい水が、休日分の私の憂鬱も洗い流してくれてる気がした。


トイレから出た私は爽やかな月曜の朝の空気を思いっきり吸い込んで、爽快に歩き出した。





「──あれ?」


ルンルン気分で教室に入ると、前方の窓際付近にいたはずの涼子と由美の姿がなかった。


学校に着いたら朝のLHRが始まるまで、あそこで雑談するのが私達の日課。


おっかしいな。
トイレ行く前はいたのに……。


キョロキョロと教室を見回した後、近くでケータイをいじってる女の子に問い掛けてみた。


「ねぇねぇ、涼子達知らない?」

「んー? あぁ、なんかさっき『ロッカーに教科書取りに行く』って言ってたよぉ」