どうしてわざわざ、自分が傷つくかもしれないような大変な道を選択するんだろう。


けど不思議なもんで、その選択に嫌悪感とかは全く感じなかった。

なんでかって聞かれると言葉に詰まってしまうけれど。


言うならば……そういう感情が沸き上がる前に、別の感情が浮び上がっていた。


「……すごい……」


気づけば、素直な感想が零れていた。


「なんか、すげぇね。佐久間くん」


私のバカ丸出しの賞賛に、悪魔は驚いたように目を丸くする。

けどすぐに目線を横に逸らした。


「……べつに」


ピアスだらけの耳たぶを触りながら、呟く。


自分の頬が自然と緩んでいくのがわかった。


あぁ、なんか……この感覚、すごく心地いい。


そういえば私は、ここ暫くちゃんと笑えてなかったような気がする。

涼子や由美といる時も、五十嵐くんといる時も。

笑う時はいつも意識的で。


──じゃあ、なんで今は、自然に笑えてるんだろう?


そんな疑問が浮かんだ時、ふと悪魔の目がこちらを向いた。


ブロックみたいに、2つの視線がはまる。


きっと今が、夕陽が一番輝いてる時間なんだろう。

悪魔の顔も、髪も、全てがそれ色に染まってて。

顔に落ちた影さえ色っぽく感じてしまう。


──悪魔の手が、頬に触れた。