「でも俺は、あいつを無視出来ねぇ」

「……なんで?」

「嫌いだからだ」


真顔で即答した後、フッと自虐的に微笑む。

一瞬見せたその表情が、あの夜の寂しそうな笑顔と重なった。


「嫌いだから、見返してやりてぇんだよ」


くっきりした声。


私は黙ったまま、吸い付けられたかのように悪魔から目が離せなかった。


一見、見つめ合ってるようで、だけど悪魔の瞳はどこか遠くを見ている気がする。

もしかしたら、私だけに言い聞かせているわけじゃないのかもしれない。


「ナメられたままで終わりたくねぇ」

「…………」

「文句言ったり、ぶん殴ったり、そういうのは卒業してからだって出来る」

「…………」

「でも認めさせるには、今頑張るしかねぇ」

「…………」

「時間の無駄かもしんねぇけど、ナメられたままでいるよりはいい」

「…………」

「後悔……したくねんだよ」


──その考え方は、私から言わせると、奇抜なものだった。


“嫌いなら避ける、ほっとく”

それが常識だと、今までの私は信じて疑わなかったからだ。


これなら楽だし、傷つかない。

むしろ、嫌いなのに仲良くする意味がわからない、と嫌悪感さえ抱いていた。


……なのに、悪魔は違った。