私は決して、悪魔を利用してたわけじゃない。

数学のおっさんを落ち込ませるために、悪魔に話し掛けてたわけじゃない。


あんな行動をしてしまったのは私が弱いせいだけど、でも──。


「……誰でもよかったわけじゃ、ないよ」


呟いた声は、掠れてた。


悪魔の瞳が私を捉えた気配がした。

見えないけど、確かに、視線を感じる。


「そりゃ……数学のおっさん、嫌いだけど」

「……あぁ」

「でも、話してんのが佐久間くん以外だったら、あんな事しない」

「あぁ」

「佐久間くんだから、嫌だった」

「あぁ」

「自分の感情だけで動いちゃダメだってわかってたけど……」

「あぁ、わかってる。……悪かった」


『悪かった』


悪魔の口から初めて聞いた言葉は、深く胸に響いた。

……謝られると思ってなかったからかもしれない。