大きな手を私の頬に添え、さっきのように涙を拭ってくれた悪魔は、ふと動きを止めた。


2人の視線がブロックのようにガッチリはまる。


金メッシュの奥にある、熱を持った茶色い瞳。


なぜか、それらが近づいてくる。

1秒に1cmずつ位、ゆっくり、ゆっくりと。


私は声も出せぬまま固まっていた。


頬に添えられていた手が、ゆっくりと耳元に移動していく。

触られている場所がジジジ、と痺れるような感覚を覚えた。


途中、悪魔は少しだけ顔を傾けて、私の目から唇に目線を落とした。


伏し目がちになった瞳が妙に色っぽくて。

心臓の中に太鼓があって、誰かがドンドコドンドコ叩いてんじゃないかってくらい、激しく暴れ出す。


フワッと、微かにお酒の香りが鼻腔をくすぐった時。





──唇に、柔らかい感触が触れた。





微かにしょっぱい、涙の味がした──……。