主語はなかったけど、それがタケティーの事だってすぐにわかった。


悪魔の瞳がいつもより光って見えるのは、淡く差し込む街灯の灯りのせいだろうか……。


「……うん」


俯いて、悪魔の胸板に頭をつけて、ポツリとそんだけ。


所詮私の想像だけど、悪魔の痛みが伝わってきたような気がして。

苦しいのに、素直に話してくれた事が嬉しくて。


すごい。悪魔はすごい。

自分の気持ちを話す勇気がある。


態度だけでわかってもらおうとしてた自分を、ズルくて、ちっぽけなニンゲンだと思った。


同時に、悪魔に対して愛しさのような感情が込み上げてくる。


「おい、泣くな」

「……泣いてねぇよ……」

「こっち向け」

「…………」

「ひなた」


数学の時もそうだけど、やっぱり悪魔は呪文か何かを心得てるんだと思う。

だって、悪魔がこの3文字を唱えるだけで。
私は不思議なくらい、素直に従ってしまうのだから。


「てめぇ、嘘ついてんなよ」


淡い光に照らされた、羨ましいくらい端整な顔。

僅かに口角をあげ、フッと微笑む。


──初めてだった。

初めて悪魔が私に向けた、本当の笑顔だった……。