──どれくらい経ったんだろう。


だいぶ嗚咽も落ち着いた頃、ふと悪魔の腕の力が緩んだ。


空いた隙間に、僅かに冷たい空気が入り込む。


思わずしがみつこうとした衝動を抑え、私はゆっくりと離れようとした。

……けど、悪魔の檻はまだ開放されてなくて。

私はほとんど動けなかった。


「お前……なんで泣いた?」


独り言のように小さな声で、悪魔は問い掛けた。


……なんで泣いた?

泣きすぎたせいで頭の回転がいつも以上にのんびりな私は、頭の中で復唱する。


涙の理由はいろいろある。

それぞれで意味が違った。


1度目は、悪魔に嫌われたと思って出た悲しみの涙。

2度目は、悪魔に許してもらえて出た安心の涙。

3度目は──


「……佐久間くんが、変な顔して笑うから……」

「なんだと?」

「ち、違……無理して笑わなくていいのに……って、思ったんだよ」


そう。
ある意味、それが一番辛かった。


私が慌ててるのと反対に、悪魔はスッと黙ってしまった。

かと思えば、短い溜息を吐き出す。