「貴女はとても良い香りがする」

 本能が危険だと告げていた。“危険”はリオにとって避けなければならない事象である。

 友人と別れてから多く見積もって十分後。リオは聡明な友人と別れたこと、もしくは忠告を受けて何も警戒をしていないことに早くも後悔していた。


 さすがに自分が今話題の“吸血鬼”に見初められると考えていなかったリオは、『明日は我が身』という言葉を考え出した人の偉大さを感じていた。


(昨日までに…いや、さっき亜紀と話している時にでもその偉大さに気付いていれば……)

 どうにかなったわけでもないだろうが、そんな現実逃避をしたくなるほどにリオはパニックに陥っていた。



「それに、ずいぶんと可愛らしいお嬢さんだ」

 殺すのが惜しいと言う吸血鬼にリオは震える口をなんとか動かす。

「吸血鬼が…、日に当たったらダメですよ………」


 夕方である今、太陽は傾いているとはいえしっかりと空に存在し、リオと吸血鬼を照らしている。



「ふはは、面白いことを言うお嬢さんだ。ますます殺すのが惜しい」


 だったらこのまま逃がしてくれないかと思うが、吸血鬼が退いてくれる気配はない。