ハルコとは、毎日何かの約束をしているワケではない。

 だから、今日も来るかどうか分からなかった。

 来てくれればいいな。

 今日のメイは、それを願う。

 カイトが遅くなるということは、この家に一人でいる時間が、いつもより長いということだ。

 そのことをあまり考えたくなかった。

 一人でずっといるには、この家は静か過ぎるのだ。

 テレビさえないのである。

 退屈をしのぐための本もない。

 パソコンは置いてあるが、使い方も分からないし、勝手に触っても怒られるだろう。

 第一、パソコンで何が出来るかさえ、彼女はよく分からなかったのだ。

 部屋中掃除したり、こまごました家事をしたりして―― 階段に座り込んで、はぁとため息をついたのは、午後2時だった。

「退屈そうね…」

 そこで、ようやくハルコが現れた。

 嬉しさに、ぴょんと耳が立ってしまいそうだった。

 雨が降りそうよ、と玄関の方を振り返る。

 雪ならいいのに。

 彼女の見立て通り退屈だったせいか、メイはぽつっとそう思った。

 しかし、慌てて首を横に振る。

 もし、本当に雪なんかがじゃんじゃん降ったりした日には、カイトが車で帰ってこられなくなってしまうかもしれない。

 いや、無理して車で帰ろうとしたら危ないではないか。

「買い物にでも出ない? 今日は、普通の買い物よ」

 私も、夕食の買い物がしたいの。

 ハルコは、本当によく気のつく人である。

 このお誘いも、メイへのたくさんの気配りが込められている。

 雨が降りそうであること、メイは車を運転できないこと、退屈そうであること。

 ありがたすぎて、かえって自分が恥ずかしくなってしまう。

 いつか、こういう素敵な人になりたいなと、ちょっと思ってしまった。

 そうすればカイトも、もっと私のことを。

 考えかけたことを、慌てて振り払った。

 また、すごく自分が贅沢なことを願ったのに気づいたのだ。