●17
「今日は…遅くなる」

 朝、玄関で抱きしめられている時に、言いにくそうな声が聞こえてきた。

 ついに来た。

 ずっと見たくなくて、戸棚の奥の方に押し込んでいた言葉が転がり出てきた。

 彼の職業柄、こんなに毎日早く帰ってこられるハズがないのだ。

 そう分かっていただけに、当然の出来事だと思ったし―― だからと言って、ショックが薄れてくれるワケじゃない。

「気をつけて…いってらっしゃい」

 気落ちしてしまったのが伝わらないように、ぱっとその失敗料理を背中の方へ隠して笑った。

 もしも見られてしまったら、彼にもこの気持ちが伝染するだろう。

 失敗料理を食べるのは、自分だけで十分だった。

 ただでさえカイトは、その事実を伝えたせいか、かなりテンションを落としているというのに。

 何時くらいになるのかとか、聞かなかった。

 はっきり分かっているなら、きっと彼は言ってくれるだろう。

 言わないということは、分からないのだ。

 そうして、カイトは仕事へ行ってしまった。