メイが謝ったことにはノーコメントで、トウセイは彼女をジロジロと見た。

「ところで」

 もう、謝られたことなんてわずかも覚えていないかのように、話を切り替えるのだ。

「ところで、あのネギはどうなったんだい?」

 場所はブティック。

 周囲には、麗しい衣装。

 そして、トウセイというデザイナーはネギの話をし始めた。

『あのネギ』というキーワードを、ハルコは知らない。

 視線はメイに向けられていたので、前に店に来たという時と関係があるのだろう。

「あっ、あのネギは…その、お鍋に………」

「鍋?」

 何て、ありきたりなものに化けてしまったのか―― みたいな反応を、トウセイはしかけた。

「お鍋に…しようと思っていたんですけど……どうなったか、分からないんです」

 話は見えないけれども、メイの反応はどうやら彼が予測したものとは外れてしまったようだ。

 バウンドした瞬間に、思いも寄らぬ方向に跳ね返るボールと同じだった。

「分からないって、自分が食べたものの行方も忘れてしまったのかい? 1ヶ月という時間は、緑の植物の行方を忘れるには十分だいうわけか」

 すっかり、つまらなくなってしまったかのように、トウセイは、これ以上付き合いきれないという風に、その場を立ち去ろうとした。

 マネキンの服を、脱がせたまま放り出して。

「いえ、そうじゃなくて…白菜と一緒に交番の床に叩きつけられて…それっきりあのネギには会ってないんです」

 メイの続けた言葉は、ハルコに3度連続のまばたきをさせ、トウセイの背中の動きを止めさせた。

 クックック。

 彼の背中が、耐えられないように上下した。

 ハルコは、それを唖然と見てしまう。