身体の側で、何かが微かに動いた。

 カマキリは、その鋭いカマでチョウチョウを捕獲し―― ん?

 反射的な行動を起こしてしまったカイトは、その後で現実社会に舞い降りる。

 目を開けたのだ。

「あっ、あの……」

 腕の中には。


 ドーン!


 重くて低い衝撃が、カイトの心臓に響き渡った。

 真っ赤な顔で、言葉を探せないでいる女性を抱え込んでいた事実に、ようやく気づいたのである。

 メイだ。

 しかし、慌てて手を離したりはしなかった。

 腕の中の存在が彼女だと分かって、どうしてカイトが引き離せようか。

「カイ…トっ!」

 驚くメイをよそに、彼はもっと引き寄せた。

 髪に顔をうずめ、寝起きの淀んだ肺の中を、彼女の匂いと入れ替える。

「メイ…」

 髪に向かって、息を長く吐き出すようにして名前を呼ぶ。

 腕の中の身体が震えた。

 心も身体も。

 メイという存在で満たされていた朝なんて、これが初めてだった。


 しかし―― それは、決してずっと続くものではなかったが。