一瞬―― ここがどこなのか、分からなかった。

 時間感覚も、何もかも狂っていたのだ。

 本当に、めいっぱい熟睡した後の目覚めとは、こんな風に記憶の混乱が生まれる。

 全ての記憶が、一回リセットされた後、みたいな。

 ビクッッ!

 だから余計に、驚きもすごかった。

 メイは、起き抜けに心臓が止まるほどの、ビックリを味わったのである。

 すぐ目の前に。

 すー。

 まだ、完全に熟睡している男の顔があったのである。

 あ、あ、あ……。

 カァッ。

 一つ記憶が戻ってくるごとに、彼女を茹でるナベの温度は上がっていった。

 ぐつぐつぐつぐつ。

 メイは、なかなか正気に戻れなかった。