うずっ。

 ハルコの身体の中で、悪い病気がうずき始める。

 いまにも始まりそうな恋を、遠巻きに温かく見守りたいというのに、いろいろ聞いてみたい感情が、ムクムクとわきあがってくるのだ。

 今度、いつこの2人を見ることが出来るか分からない分―― そう、チャルメラの音楽を、聞いてしまった瞬間に似ている。

 いま行かなければ、もうあの屋台はどこかへ消えてしまうのだ。

 次に、いつ通りかかってくれるか分からない。

 チャルメラの音楽に、ソウマが丼2つ持って駆けていったことを思い出して笑顔がおさえきれない。

 夫に女性ファンがいたとしたら、その瞬間に幻滅しただろう。

 いま、丼を持っているのはハルコだ。

 チャルメラの屋台を引いているのは、ワンコの社長と、ヘバっているハナ嬢。

「大丈夫かしら? この後」

 もうすぐ、お開きになりそうよ。

 眠っているのか、ぼーっとしているのか分からない彼女のことを考えて、押さえた声で語りかけた。

 いろんなものでコーティングして、当たり障りのないことを聞いてみたのだ。

「あ、せやな…」

 支えている彼女に、視線を落とす。

 その瞳の、愛しげ、かつ、不安そうなことと言ったら。

 まあ。

 ハルコは心騒いだ。

 きっと、離れたくないと思っているに違いない。

「何だったら、私たちが彼女を家まで送り届けましょうか?」

 責任を持って、お預かりして。

 彼女の家がどこなのかは知らないが、タロウ氏の家よりも近くであることは間違いなかった。

 彼は、ここよりもずっと、西の方に住んでいるのだから。

 家の場所は、社員の誰かに聞けば、近いところまでは分かるだろうし、最悪、自宅に泊めて朝送っていってもいいのである。