ハルコはまだ、副社長の側で話している。

 そろそろ、帰ろうかしら。

 約束の時間は、7時だった。

 この店の前まで、迎えに来てくれる予定にしていたが、ケイタイで電話して場所を変更してもいいだろう。

 ハルコに少し早く出ると言っていたし、そろそろ潮時かもしれなかった。

「お作りしましょうか?」

 彼女が、腰を浮かせようとした時。

 あのウェイターが、側にひざまづくと彼女のグラスを取った。

 いえ、私は。

 もう帰るから。

 そうつっぱねようと思ったのだが、水割りが余りに鮮やかに出来上がっていく様を見てしまって、まあ、一杯くらいはいいかしら、とリエは席に身体を預けた。

 少し、心が弱くなっているのかもしれない。

 今日は、披露宴や二次会にあるまじきことを、本当にいろいろ考えてしまった。

 それで疲れたのだろう。

 すんなりとスマートなことをしてくれる人を、いま彼女は求めているのかもしれない。

 鋼南電気には、本当にそういう人が少ないから。

「番号は、お気に召さなかったみたいですね」

 グラスを渡しながら、ウェイターが小さな声で言った。

 そこで、あのフライドポテトの下のメモを思い出す。

 今は、もうその皿は下げられてしまったので、確認することは出来ない。

 リエは無言で、グラスに口をつけた。

 口説かれるのがイヤだった―― と言えば、ウソになる。

 誰だって、付き合うかどうかは別にして、男に『いい女』と思われるのは悪い気はしない。

 しかも、本当に柔らかく紳士的に来られると、自分が高級な女性になったように感じたりもする。