○水割り

 ハルコが、副社長の方に行ってしまってから、リエはいつの間にか孤立していた。

 すっかり出来上がった人たちで、店の中は雑然としていて、みんな彼女が1人であることに気づかない。

 別に。

 今日は、ハルコと話に来たのである。

 会社の人と、親睦を深めに来たワケではないのだ。

 彼らとは、どうせ毎日会社で会うのだから。

 そう自分に言って、リエは強がってみせた。

 大体、仲良くしたい相手は、社内にはいないのだ。

 今日来ている男性のほとんどは、開発の社員か、まったく知らない人だったし、他の女性たちは何だかんだ言いながら、酔って他の男たちと楽しそうにおしゃべりをしている。

「あの、リエさん」

 開発社員の男が、おずおずと声をかけてくる。

 まるで、彼女に取って喰われるとでも思っている態度に、ムッとする。

 男なら、女にそんな卑屈な態度見せないで欲しいわ。

 開発の男たちときたら、架空の、自分を裏切らない女を大事にするので一生懸命で、現実の側にいる女たちには、いつ傷つけられるかとヒヤヒヤしているように見える。

 そんなところが、リエはイヤだった。

 現実にいるのは、彼女のような生身の女性たちだというのに。

「この後の、三次会はどうします?」

 いま、行く人を希望取ってるんですが。

 時計を見ると、6時半が近づいてくる。

 二次会は、7時までだと聞いていたが、余りに夜が早いので三次会に突入しようというのだろう。

「いえ、私は遠慮しておきます」

 たとえ予定がなくても、リエは辞退しただろう。

 理由は、彼女の開発の人たちに対する気持ちだけで十分だろう。

 そうですか、と相手が行ってしまうと、ますますもってリエには何の声もかけられなくなってしまった。