タロウは―― このまま、時が止まってしまえばええ、と思った。

 酔ったハナを、いま自分は介抱しているのだ。

 しかも!

 しかも、である。

 彼女は、自分の膝枕で眠っているのだ。

 上着を脱いで、ハナの身体にかけてやる。

 酔ってつぶれた女に、いけないことをするのは、タロウの信条に反するが、こうしているだけでも、彼は幸せでしょうがなかった。

 おるんやな。

 ようやく、少し落ち着けた、というところか。

 この元気ものが、ピンピン跳ね回っている間は、一緒に彼の心臓もジャンプ三昧だった。

 けれども、こうして遊園地帰りの子供みたいに寝入ってしまうと、何だかこう、じわーっとあったかいものに、ヒザと心を占拠されるというか。

 ホントに、運命の相手っておるんやな。

 つくづく、タロウはそれを思い知らされていた。

 出会ったばかりとは思えない、この燃え上がっている気持ちは、本当にいままでの人生の中で初めての出来事だった。

 気の強い女なら、世界にはたくさんいる。

 しかし、いずれも120点なんて点数を、ソロバンに打ち込んだりしなかった。

 おかげで彼は、ジャカジャカとソロバンを打ち鳴らし、ソロバンスキーで直滑降という有様なのである。

 ホンマ、来てよかったで。

 もし、二次会に来なければ、いまこの膝枕の役は、他の男だったかもしれない。

 鋼南の社長や副社長と、何か因縁がありそうな彼女である。

 しかも、こんなに可愛いのだ。

 他の男連中に、目やツバをつけられてもしょうがない。

 しかし。

 タロウは、まだ彼女のことを全然知らなかった。

 名前がハナであることくらいだ。

 他の連中に聞けば、どこの部署で働いているかとか、フリーかどうかとか確認することも出来るのだろうが、いまのこの状況では無理だ。

 この膝枕を、彼は放棄したくなかったのである。