♪ワイン

 なーにー?

 だんだん霞が深くなっていく思考の中で、ハナは突然の乱入者に、思い切り顔を顰めて見せた。

「失礼します…」

 などと言いながら、隣の男との間を押しのけるようにして入ってきたかと思うと、いきなりその席に座るのだ。

 満員電車で、ちょっとした隙間をこじあけて座るオバハンのような真似をしでかしたのは、誰あろう―― 鋼南の副社長である。

 ロボットだの、アンドロイドだのコンピュータだの。

 呼ばれ方は様々だが、少なくとも愛されているキャラクターではない。

 それどころか、彼を見て逃げていく人の方が多かった。

 別に、ハナは逃げたりしなかったが。

「何や、何や!!??」

 間に割り込まれて、ワンコの社長はロボットの向こう側に隠れる。

 右に左に顔を出して、彼女を見ようとしているようだが、間の樹木が邪魔のようである。

「何よぉ…ロボロボじゃない! 何? お酒飲みたいの??」

 いまの彼女は、判断力が極端に低下している。

 いつも心の中で勝手に呼んでいるような愛称が、つるっと口から飛び出した。

 途端、緊張とどよめきが周囲に広がったが、彼女の耳には届かない。

「は?」

 不思議そうな眼鏡が、こっちの方を見る。

「あはは! ロボって言ったら、あんたに決まってんじゃない!」

 キャハキャハ笑いながら、ハナはバシバシと副社長の背中を叩きまくった。

 そして、そこらのグラスを掴むと、引き出物のワインをダバダバと注ぐ。

 ハナが、既にかなり飲んでいたので残り少なかったが、その所業で本当に残りはごくわずかとなってしまった。

「私がロボですか…確かに、社内にはそう噂している者たちもいるようですね」

 面と向かって言われたのは、初めてですが。

 押しつけられたグラスを、一度受け取りはしたものの、副社長はそれをテーブルに戻してしまった。

 人が、せっかくお酌してやったワインだというのに、飲まないというのだろうか。

 ハナの眉間のシワが深くなった。