貸切の洋風居酒屋の中は、どこもかしこも鋼南電気の社員や、その他の知り合いたちで埋め尽くされていた。

 彼女は、社員以外の人間は、分からない。

 その中でも、社長の連絡先を知っていて、なおかつ、つっかかりやすい相手と言えば。

 ガタン!

 ハナは、おもむろに席を立ち上がる。

 こんな、うだつの上がらないヒラの中にいてもしょうがないのだ。

 もっと、利用価値の高い人間がいるのを発見した彼女は、周囲の人間にぶつかるようにしながら、目的地にたどりついた。

「おっ…」

 声をかけるより先に気づかれてしまい、向こうが軽くグラスを上げてみせた。

 楽しんでるか? とでも言いたげな雰囲気である。

 楽しんでるワケないでしょ!!!!

 そんな心の声に、鋭くツッコミを入れながら、ハナは無理矢理隣の席に割り込んだ。

 迷惑そうに押しのけられた社員が、自分よりも上の肩書きを持っていたのを知ってはいたが、いまの彼女にはただの邪魔者だった。

「チーフ!!!」

 そして、単刀直入に彼に詰め寄ったのだ。

 そう。

 その席で、既にグラスをほぼカラにしていた男は、誰あろう第一開発部のチーフだったのである。

 この男が、ケイタイ番号を知らないはずがない。

 ハナ名探偵は、そう睨んでいた。

「今日も元気そうだな…まあ、一杯どうだ?」

 笑顔で瓶ビールを持ち上げて、グラスを渡してくれる。

 反射的に受け取ってしまったが、ハナがそれに応じるハズがない。

 そのグラスを床に叩きつけなかっただけ、幸運だっただろう。