♪ビール
「かんぱーい!」


 ガチャンガチャン――グラスをぶつけ合う音が、店中に響き渡った。

 最初の一杯目は、ビールだ。

 それが各席に行き渡り、今やまさに結婚式の二次会が、華やかかつ、なごやかに始まったばかりだった。

 が。

 しかし。

 全然、めでたい気持ちになれない人間がいたのだ。

「ぬわんですってぇ~~~~~!!!!!!!」

 グラスに口をつけることも忘れて、ハナは隣に座った第一開発の男に食ってかかったのだ。

 掴み上げるには、手がふさがっていると面倒なので、ガンとテーブルにグラスを戻す。

 勢い余って、自分の手に泡が飛ぶ。

 それも気にせずに、ハナはいきなりその男のネクタイを掴み上げたのだ。

「うわっ…ま、待て! オレが何かやったわけじゃ…うがっ!」

 慌てて言い訳する男のネクタイを、尚更きゅっと掴み上げたので、前よりも首が締まって苦しいらしく、ジタバタと暴れた。

 しかし、それでもハナの気は済まないのだ。

 こんなことが、許されるのか。

 披露宴で、今日の主賓の2人が逃げ出してしまったというのだ。

 要するに。

 二次会に、コウノとコウノヅマは来ないというのである。

 そ…。

 わなわなと、ハナは怒りに震えた。

 そ…そんなの、許されるワケないじゃない!!!!

 何のために、自分がわざわざこんな席に、顔を出したと思っているのか。

 一重にも二重にも、今日の主役の姿を見るためではないか。

 こんな、いつもの顔を見ながら酒を飲むためでは、断じてないのである。