もし会社を辞めると言えば、今は引き留められることはないだろう。

 しかし、売れっ子デザイナーになれば、あのコウノが泣いてすがって、「行かないでくれ」と引き留めるかもしれない。

 それほどの、存在になりたかったのだ。

 だから、そういうメイクにしてくれ、と思っているワケで。

「うーん、しょうがないわねぇ」

 リムーバーをコットンにつけながら、せっかくの傑作を残念そうに、二人で落としていく。

 目を閉じて仮面をはがされながら、しかし、今日はもう一つの野望があることを、ハナは忘れていなかった。

 朝からずっと、彼女の心を捕らえて離さない存在。

 コウノヅマ。

 そう。

 今日のメインイベントは、そのコウノヅマを見に行くことである。

 もしかしたら、同業者の女性かもしれない。

 はたまた、ネットで名を馳せている人かもしれない。

 何より、あのコウノの性格と、付き合っていこうと思う女性なのだ。

 相当の神経の太さか、才能が要求されるのではなかろうか。

 頭の中に、ハナは何度となく画像を思い浮かべてみた。

 しかし、あのコウノの横に立っている女性の姿は、どうしても想像出来なかったのである。

 フェイントかけて、ヤン系だったらどうしようかな。

 コウノが披露宴に誘ってさえくれていれば、今頃はどんな女性か見ていたに違いないのに。

 うう。

 どっかで、披露宴のビデオ裏入手できないかしら。

 余計なことを考えながら、彼女は二人の姉によって、キャリアウーマンメイクを施されていた―― が、やはり、微妙に希望の顔とは違うのだ。

「却下!」

 一言で切り捨てて手鏡を突っ返すと、2号にゴチンとやられてしまった。

 そんな姉たちの感性の違いと戦いながら、近づいてくる二次会に、ハナは誓ったのだ。


 首洗って待ってなさいよー! コウノヅマ!!