二人とも、声はない。

 ただ、どこか微かにうわずったような小さな呼吸音だけが、エレベーターの音にかき消されながらも、確かに二人の唇の中には息づいていたのだ。

 どうして?

 それを、本当はメイは聞こうと思っていたのだ。

 これから、どこに行くつもりなのかも。

 なのに。

 この狭い箱の中で二人きりでいると、そんな言葉を口にすることも出来ない。

 ただ、彼女が深く吐いた息で―― 一瞬、鏡の中の自分が白くくもり、カイトの表情を隠した。

 その瞬間に、ざぁっと不安が津波のように押し寄せ、メイは振り返ろうとした。

 すぐそこにいる彼を見つめて、どういう気持ちなのかを、直接推し量ろうとしたのだ。

 けれども、それよりも先に、腕が。

 ドレスの形なんか、構ってもいない強い腕が、後ろからメイを抱きすくめた。

 あ。

 鏡の中の。

 白いくもりが、晴れていく。

 自分を抱きしめるカイトが見――

 チン!

 鏡の中の、扉が開いてしまった。