むっすー。

 メイが、隣の席からいなくなった途端、明らかにカイトは自分の気持ちが歪んだのが分かった。

 どんな祝辞の言葉もお酌も、どれも対応がおざなりになってしまう。

 大体。

 今日、カイトが我慢している理由は、すべて彼女のためなのである。

 その最大の柱が、なくなってしまったのだ。

 ただでさえ、倒壊しやすい建物のカイトである。

 彼女が見えなくなって1秒で、すでにグラングランと揺れていた。

「んー? どうしたー?」

 ワインボトルを片手に、ソウマが近づいてくる。

 含みのある声で、顔を覗き込んでくる―― カイトは、ふるっと指先を震わせた。

 今日のこの男は、嫌いだった。

 何を着てもどこにいてもサマになる男、というのを見せつけられたし、メイの笑顔も泥棒した男だ。

 その気持ちを込めて、フンとシカトする。

 まともな反応を返すと、絶対にからかってくるに違いないのだ。

「おーお、ご機嫌ナナメか…そんなに彼女と離れたくなかったのかな? ん?」

 グラスも持たないカイトの態度に、しかし、更にソウマは踏み込んできた。

 勝手にワインを注ぎながらも、その口が閉ざされることはない。

「何や? コーナンのシャチョーさんは、そない奥さんにベタ惚れなんか?」

 ひょっこり。

 ソウマ一人でも、厄介なのに。

 聞き覚えのある声に、カイトの中の溶岩の温度が、また上がった。

 見るまでもない。

 こんな、お軽い西部ナマリのある男の知り合いは、一人だけなのだ。

 ワンコの社長、タロウ・タナカ。

 きっと、シュウが招待したのだろう。