結婚が、ワインに似てるだと????

 温度を守れ、だと??

 いきなりやってきて、ワケの分からないことを並べ立ててくれた教授の背中を、ギロッと睨みつける。

 大学時代は、くだらない説教が多かったが、今度はくだらない祝辞を、わざわざ言いにきたらしい。

 絶対にカイトが守ることを、イチイチ言い含めにきたのだ。

 誰が、温度管理を失敗して、メイを失うものか。

 彼のこの気持ちを知っていたら、アオイも今更そんなことを言うことはなかっただろう。

 別に、あの男に分かって欲しかったワケではないが。

 何が、ワインだ。

 ムッとして、カイトはグラスを掴んだ―― が、それは気づけばワイングラスで。

 中では白ワインが、ゆらゆらと揺れていた。

 おそらく、ワインを用意させたのはソウマに違いない。

 あの男にとって酒というのは、まずワインらしいので。

 構わず飲もうとしたカイトだったが、気にしていないつもりなのに、さっきのアオイの言葉が頭をよぎって、一瞬手が止まる。

 そのグラスを持ったまま、ちらっと隣の席を見る。

 メイの方だ。

 ちょうど、彼女の友人が挨拶にきているところで、入り込めない女性だけの輪が出来上がっていた。

 写真を撮ったり、「きれいね」とか「おめでとう」とか、聞き慣れない高い声の女性たちの輪唱が、メイを包んでいるのだ。

 それに、恥ずかしそうに赤くなったり、笑ったり。

 自分に向けるものとは、またちょっと違う表情に、カイトは目を奪われた。

「幸せ??」

 女友達の1人が言った言葉が、ぽんと彼の耳に飛び込んでくる。

 無意識に、カイトの耳はピンと立った。

 メイに対して、幸せにしたいと常に思っているカイトには、この後、彼女が何と答えるかが、気になってしょうがなかったのだ。

 無意識に、ワイングラスを持った手に力がこもってしまう。