「だが…温度管理を間違えると、そのワインの味は悪くなってしまう……そなたにとって大事にしたいワインだというのなら、一生かけてその温度を守るのだな」

 おそらく。

 この男は、アオイの言葉に反応を返さないだろうと思っていた。

 そして、その予測は的中したのだ。

 そんなこと分かっている、というようなぶすったれた顔のまま、違う方を見続けているのだ。

 ふっ。

 しかし、アオイのとっておきの言葉である。

 心に染み渡らないハズがない。

 おそらく、今頃深い感銘を受けているに違いなかった。

 自分で自分の予測にご満悦になりながら、アオイは踵を返し、自分の席へと戻ろうとした。

 その時。

 ようやく、隣席に招待客が登場したのだ。

 宴席の混乱に紛れて、何食わぬ顔で席につく姿を、彼が見逃したりするハズがなかった。

 む。

 教授は、その端正な眉をゆがめた。

 見たことのある男だったのだ。

 この黒髪長髪、そして長身の男を見忘れるはずがない。

 確かに、この男は結婚式にも列席していたハズだった。

 あれから、もう2~3時間たっているというのに、この男は一体何をしていたというのだ。

 胡散臭く思いながらも、知り合いというワケではないので、いきなり説教するワケにもいかない。

 アオイは、ちらちらと隣を気にしながらも、自分の席に着いた。

 ふわり。

 そんな教授の鼻先に、隣から漂ってくるほのかな香水らしき香り。

 むっ!

 更に、アオイの眉は険しくなった。

 男のくせに、香水など!!!

 こうして、彼にとって隣席の男の評価は、完全に落下したのだった。


 けしからん!!!!